Claudeの最上位モデルClaude Fable 5Claude Mythos 5が、2026年6月12日に突然使えなくなった。公開からわずか3日後のことだ。「自分のClaudeが急に使えない」「Mythos 5って結局何だったの?」と戸惑った人も多いだろう。

結論から言うと、止めたのはAnthropicではなく米政府だ。同社は政府の指令に法的に従って2モデルを停止したが、その判断自体には公式に反対している。つまりこれは「AI企業が慎重を期して自粛した」話ではなく、「政府が強力なAIを止めさせ、企業がそれに異議を唱えている」という、これまでなかった種類の出来事だ。

この記事では、まず誰でもわかる言葉で「何が起きたか」「2つのモデルは何が違うのか」「なぜすぐ全員が使えないのか」を整理する。後半では、Responsible Scaling PolicyやASL(AI Safety Level)といったやや専門的な仕組みや、開発者への影響まで踏み込む。ジェイルブレイク(安全策の回避)の具体的な手口は一切扱わない——目的は背景の理解であって、抜け道の紹介ではない。

各モデルの性能・価格・使い分けそのものは Claude Fable 5とMythos 5入門|公式ベンチマーク・価格・使い分けを解説 で公式値ベースに整理している。本記事はその「なぜ使えないのか・誰が使えるのか」編にあたる。

この記事のポイント(30秒で理解する「Claudeが使えない」騒動)

何が起きたか:Claudeの一番すごい2モデル(Fable 5とMythos 5)が、2026年6月12日にいったん全部使えなくなった。普通のClaude(Opus 4.8など)は今までどおり使える
止めたのは誰か:Anthropicではなく米政府。安全保障上の心配を理由に「止めなさい」と指令を出した。Anthropic自身は「やりすぎだ」と反対している
これからどうなる:Anthropicは「誤解だと思う、できるだけ早く戻す」と表明し、政府と話し合い中。戻る時期はまだ未定

何が起きたか——Fable 5・Mythos 5が突然使えなくなった

まず事実だけを押さえる。Anthropicの公式声明によれば、同社は2026年6月12日(米東部時間17時21分)に米政府から指令を受け取った。内容は、Claude Fable 5とMythos 5へのアクセスを止めること。形式上は「外国籍ユーザー(米国の内外を問わず、外国籍のAnthropic従業員も含む)への提供停止」を求めるものだったが、国籍で線引きするのは実務上むずかしいため、Anthropicは確実に従うために全ユーザーで2モデルを無効化した。

大事なのは、止まったのがこの2モデルだけだということだ。声明は「その他すべてのAnthropicモデルへのアクセスは影響を受けない」と明記しており、Opus 4.8やSonnet、Haikuなどは通常どおり動く。

この動きはCNBC、Bloomberg、Axiosなど主要メディアが一斉に報じた。Axiosは独自取材として、トランプ政権が国家安全保障を理由にAnthropicの最高性能モデルへの外国アクセスを遮断した、と伝えている。鳴り物入りで6月9日に公開されたばかりのモデルが、たった3日で行政指令の対象になった格好だ。

Anthropicは声明で、指令書自体には国家安全保障上の懸念の具体的な中身は示されていなかったと説明している。そのうえで同社は、自分たちの防御の厚みを強調した。Fable 5には「サイバーセキュリティ関連の悪用の可能性を大きく下げる強力なセーフガード」を組み込み、米政府・英国のAISI(AI Safety Institute、AI安全研究所)・第三者機関とともに数千時間のレッドチーム検証(攻撃側の視点で弱点を探すテスト)を重ねたという。

声明はこう述べる——「Fableのセーフガードは、これまで展開されたどのモデルのものよりも実質的に効果的だ」。

さらにAnthropicは、指令には従いつつも「これは誤解だと考えており、できるだけ早くアクセスを復旧させるべく動いている」と表明し、24時間以内に追加情報を共有すると約束した。要するに、「止めはするが納得はしていない」という二段構えの対応である。

ここがポイント:今回の「停止」はAnthropicが自分の判断で課したものではない。政府の指令は法的な命令で、企業に断る自由は実質ない。だからこの件は「AI企業の安全判断」ではなく、「政府が商用AIに介入した初期の事例」として読むのが正確だ。

つまり——「Claudeが自分でブレーキを踏んだ」のではなく、「外から止められた」というのが実態。

Claude Fable 5とMythos 5は何が違うの?——同じ料理人の、客向けとプロ向け

「Fable 5」「Mythos 5」と名前が2つ出てくるので混乱しやすいが、関係はシンプルだ。中身(基盤モデル)はまったく同じで、違うのは「安全装置の強さ」だけである。

料理にたとえるとわかりやすい。同じ厨房・同じ料理人から出てくる皿でも、

Fable 5=一般のお客さん向けに、アレルギー対応や辛さ控えめにした皿(安全分類器という”危険な注文を断る仕組み”を組み込んだ一般公開版)
Mythos 5=信頼できるプロの料理人向けに、制限を一部外して本来の力を出した皿(安全分類器を一部解除した最大性能版。Project Glasswing経由で承認された防御・インフラ事業者だけに提供)

という違いだ。Mythos 5は誰でも使えるものではなく、もともとサイバー防御やインフラを担う限られた事業者向けだった。一般ユーザーが触れられる最上位モデルはFable 5のほうだった、と理解すればよい。

なぜこんな区別をするのか。元になった「Mythos」は、サイバー攻撃・防御に直結する非常に強い能力を持っていた。Anthropicは公式に「欠陥を見つけられるモデルは、それを悪用することもできる」と説明しており、だからこそ前世代の「Claude Mythos Preview」は広く公開せず、重要ソフトを守る人たちの手に渡してきた。Fable 5は、その力を安全装置で抑えて初めて一般に開いたモデルにあたる。

つまり——Fable 5とMythos 5は「双子のモデル」。違いは性能ではなく”安全装置をどれだけかけているか”であり、だから渡せる相手も変わる。

Fable 5とMythos 5の違い早見表

言葉で追うと混乱しやすいので、両モデルの違いを一覧で押さえておく。「性能そのもの」ではなく「安全装置と提供先」で分かれている点が要だ。

観点 Claude Fable 5 Claude Mythos 5
基盤モデル(中身) 同一 同一
安全分類器 組み込み(サイバー・生物・蒸留の3領域で危険な要求を遮断) 一部を解除した最大性能版
主な提供先 一般ユーザー・開発者(一般公開) Project Glasswing で承認された防御・インフラ事業者のみ
想定用途 汎用の高性能タスク サイバー防御・重要インフラ保護など
モデルID(例) claude-fable-5 限定提供のため一般には非公開
6/12停止の影響 全ユーザーで利用不可に 対象事業者で利用不可に

要するに「性能で上下がある2モデル」ではなく、「同じ性能を、どれだけ安全装置で抑えて誰に渡すか」で分けた2枚だ。 一般ユーザーが日常的に触れられる最上位はFable 5であり、Mythos 5は最初から限定提供だった——ここを押さえると、今回の停止で「誰に実害が出たのか」(=主にFable 5の業務利用者)が正確に読める。

なぜ強力なAIはすぐ全員に開放されないの?——運転免許に段階があるのと同じ

「すごいモデルなら、さっさと全員に開放すればいいのに」と思うかもしれない。だがAIの世界では、強力なツールほど、安全な使い方が確認できた相手に段階的に渡すのが基本になっている。

身近な例が運転免許だ。いきなり誰もが大型トラックを運転できるわけではなく、仮免・本免・大型免許と段階を踏む。車の性能(=危険を起こしうる力)が上がるほど、確認のハードルも上がる。AIモデルも同じで、能力が高いほど悪用されたときの被害も大きくなりうるため、提供側は「安全装置を積む」「渡す相手を絞る」「いったん限定公開して様子を見る」といった段取りを踏む。

Anthropicの場合、この考え方を形にしたのが後で説明するResponsible Scaling Policy(責任あるスケーリング方針)だ。Fable 5に安全分類器を積んだのも、Mythos 5を限定提供にしたのも、この「段階的に渡す」設計思想に沿っている。

ただし注意したいのは、今回の全停止はこの自主的な段階設計とは別物だということ。Fable 5はすでに一般公開され、誰でも使える状態だった。それが急に止まったのは、Anthropicが「やっぱり段階を戻そう」と判断したからではなく、外から政府の指令が来たからだ。

つまり——「段階的に渡す」のは平時のAnthropicの設計。今回の停止は、その設計の外で起きた”突発の介入”。この2つを混ぜると話がこんがらがる。

誰が使えるの?——Claudeのアクセス階層を図で見る

「結局いま誰が何を使えるのか」を図で整理する。平時のアクセス構造と、今回の停止がどこに効いたかを重ねて示す。

flowchart TB subgraph NORMAL["平時のアクセス構造"] OPUS["Opus 4.8 / Sonnet / Haiku
(一般向け・幅広く提供)"] F["Claude Fable 5
(一般公開・安全装置あり)"] M["Claude Mythos 5
(限定・安全装置を一部解除)"] OPUS --> U1["誰でも(API / Claude.ai / Copilot 等)"] F --> U2["一般ユーザー・開発者"] M --> U3["Project Glasswing で承認された
防御・インフラ事業者のみ"] end ORDER["2026-06-12
米政府の指令"] -->|遵守のため全停止| F ORDER -->|遵守のため全停止| M F -.->|今は使えない| X1["利用不可"] M -.->|今は使えない| X2["利用不可"] OPUS -->|影響なし| OK["通常どおり利用可"]

図のとおり、影響を受けたのはFable 5とMythos 5の2モデルだけだ。普段使いのOpus 4.8などはそのまま使える。元から限定だったMythos 5への一般ユーザーの直接の影響は小さく、実害が出るのは主にFable 5を業務で使っていた人になる。

平時のFable 5は、Claude APIに加えてAmazon Bedrock・Google Vertex AI・Microsoft Foundryといったクラウド経由でも提供され、GitHub Copilotやclaude.aiの有料プランからも使えていた。窓口が多いぶん、停止の影響範囲も広い。

一方で「外国籍ユーザーへの提供停止」という指令の建付けは、国籍をどう確認するかという運用上の難しさを抱える。Anthropicが結局”全停止”という最も保守的な選択を取ったのも、グレーゾーンを残して指令違反になるリスクを避けたためと読める。

つまり——「Claudeが全部死んだ」わけではない。止まったのは最上位の2枚だけで、土台のモデルは生きている。

「Responsible Scaling Policy(責任あるスケーリング方針)」って何?

ここから少し専門的になる。Anthropicの安全設計の根っこにあるのがResponsible Scaling Policy(責任あるスケーリング方針、略してRSP)だ。

RSPをひとことで言うと、「モデルが強くなるほど、安全対策も比例して強くする」という自社ルールである。Anthropicはこれを「比例的(proportional)・反復的(iterative)・他社にも展開可能(exportable)」なリスク統治だと説明する。能力が一定の危険水準を超えたら、それに見合った安全基準を満たすまで展開しない、という約束だ。

たとえば、あるモデルが「そこそこの資源を持つ国家プログラムのCBRN(化学・生物・放射性物質・核)開発を大きく後押しできる」水準に達したら、より厳しい安全基準が発動する。RSPは、こうした”危ない能力のしきい値”をあらかじめ決めておき、超えたら自動的に対策を一段引き上げる仕組みになっている。

Fable 5に積まれた安全分類器(サイバー・生物・蒸留の3領域で危険な要求を断る仕組み)も、このRSPの発想の産物だ。

つまり——RSPは「強いモデルには強い安全策を、弱いモデルには軽い安全策を」と能力に応じて段階を切り替えるAnthropicの自主ルール。ただし繰り返すが、今回の停止理由はRSPではなく政府指令だ。

ASL(AI Safety Level、AIの安全性段階)の仕組み

RSPの”段階”を測る物差しがASL(AI Safety Level、AIの安全性段階)だ。地震の震度のように、AIの危険度に応じて求める対策のレベルを番号で表す。

ASL-2:標準的な安全対策のベースライン。現行の多くのモデルが該当
ASL-3:サイバーやCBRNなど、危険な能力が一定のしきい値を超えたモデルに求められる強化版。発動すると、より厳しいセキュリティと展開基準が課される

Anthropicによれば、ASL-3の展開時の安全策は「4層の多層防御(defense in depth)」で構成される。具体的には、(1)アクセス制御、(2)リアルタイムの分類器、(3)非同期の監視、(4)事後のジェイルブレイク検知、の4段だ。さらにセキュリティ面では、アクセス管理・区画化から物理セキュリティまで17項目の管理策が定められている。

この「不完全な層を何枚も重ねて全体の堅さを出す」という考え方は、後で出てくるジェイルブレイク防御とも共通する。完璧な1枚の壁は作れない前提で、複数の壁を重ねる、という発想だ。

なお、今回Anthropicが受け取った政府指令の声明には、ASLやRSPへの言及は一切なかった。つまりASL-3が発動したから止まった、という話ではない。ここで紹介したのは、Anthropicがなぜ「段階的に渡す」「安全装置を積む」という行動を取るのか、その背景にある枠組みとしてだ。

つまり——ASLは「このモデルはどのくらい危険か、だからどのくらいの守りが要るか」を示す段階。今回の停止の直接の引き金ではなく、Anthropicの平時の安全思想を理解するための地図にあたる。

過去にもあった「段階的アクセス」——OpenAI o1などの例

「強力なモデルを最初は絞って出す」こと自体は、業界では珍しくない。ただし今回はそれらと性質が違う。比較で位置づけを掴む。

たとえばOpenAIのo1は、2024年末の登場時、APIアクセスを利用階層(usage tier)で絞り、当初は関数呼び出しやストリーミング、システムメッセージなどの機能を欠いた状態で提供された。2024年12月17日からまず「tier 5」の一部開発者に開き、その後に検証済み組織を条件として段階的に広げている。

ChatGPT上でも当初は週あたりのメッセージ数に上限が設けられていた。これは提供者(OpenAI)が自分の判断で行う段階的ロールアウトで、能力を絞ったのも開放を広げたのも、すべてOpenAIの裁量の中の話だ。

Anthropic自身のMythosも、元々は政府協議のもとで限定提供されてきた未公開モデルだった。前世代の「Claude Mythos Preview」は、サイバー脆弱性を多数発見できる能力ゆえに広く公開せず、重要ソフトを守る側に渡されていた。Fable 5は、その力を安全分類器で抑えてようやく一般開放した転換点であり、Mythos 5は引き続き限定提供だった。ここまではすべて”企業の裁量による段階的アクセス”の話である。

今回が決定的に違うのは、判断したのが提供者ではなく政府で、強制力が法的指令だという点。下表で並べると差がはっきりする。

観点 今回のFable 5 / Mythos 5 OpenAI o1(例) 一般的な段階公開
制限を決めた主体 米政府(指令) 提供者(自社の階層設計) 提供者
強制力 法的指令(断る自由が実質ない) 利用規約・階層ポリシー ポリシー・契約
名目上の理由 国家安全保障 安定運用・段階開放 安全評価・容量確保
提供者の合意 不同意(公式に反論) 自社方針なので合意 自社方針なので合意
戻る道筋 政府との協議・再評価 tier昇格・機能追加 評価通過で順次拡大

表のうち「提供者の合意」の列を見ると、今回だけが”不同意”だ。見た目は同じ「アクセス制限」でも、誰が決めたか・断れるかがまるで違う。ここを取り違えると「Anthropicが慎重を期して自粛した」という誤った理解になってしまう。

ジェイルブレイクってそもそも何?——学術的な整理とConstitutional AI

政府が問題にしたのは、Fable 5の「ジェイルブレイク」だった。この言葉を、公開研究の範囲で中立的に押さえる。具体的な手口・プロンプトは一切扱わず、防御側の知見だけを見る。

ジェイルブレイク(jailbreak)とは、AIの安全装置をかいくぐって、本来は断られるはずの出力を引き出そうとする試みの総称だ。なぜ起きるかというと、AIは膨大なデータを学んでおり、「これは断る」というルールは後付けの薄い層として乗っているため、その層を回り込む入力が原理的に存在しうるからだ。だからAnthropicも「完璧なジェイルブレイク耐性は、現時点でどの提供者にも不可能」と明言している。

今回のケースでAnthropicが確認した実証は、「特定のコードベースを読ませて欠陥を直させる」という、狭く・汎用的でないものだった。見つかる脆弱性は「比較的単純」で、他の公開モデルでも発見できる水準だと評価している。コードを読んで欠陥を直す行為自体は、世の開発現場で日常的に使われる普通の用途である。

これに対するAnthropicの防御研究の中心が、2025年2月に公表したConstitutional Classifiers(憲法的分類器)だ。仕組みは図のとおり、入力と出力の二段で危険を判定する。

flowchart LR IN["ユーザーの入力"] --> IC{"入力チェック
(危険な依頼か?)"} IC -->|問題なし| LLM["Claude本体"] IC -->|危険| R1["断る"] LLM --> OC{"出力チェック
(危険な内容か?)"} OC -->|安全| OUT["回答を返す"] OC -->|危険| R2["断る"] RULE["安全のルール集
(何が許可で何が禁止か)"] -.-> IC RULE -.-> OC

入口と出口に検査を置く「二重チェック」型で、各検査は完璧でなくても重ねることで全体を堅くする。元をたどればAnthropicのConstitutional AI(憲法的AI)——AIに守るべき原則(憲法)を与えて自己整合させる手法——の系譜にある。

Anthropicが公表した数値はこうだ。

・自動評価で、ジェイルブレイクの成功率を無防御の86%から、防御ありの4.4%へ低下(95%超をブロック)
・無害な質問への誤った拒否の増加はわずか0.38%(統計的に有意でない水準)、計算コストの増加は23.7%
・プロトタイプのレッドチーム検証では183名が3,000時間超、最大1.5万ドルの報奨で挑んだが汎用的なジェイルブレイクは発見されなかった
・続く公開デモ(2025年2月)では339名が30万回超のやり取りを試み、4名が全8段階を突破、うち1件をAnthropicは汎用ジェイルブレイクと判定、報奨総額は5.5万ドル

これらの防御が主に狙うのは、CBRN(化学・生物・放射性物質・核)に関わる有害な要求だ。今回Fable 5に積まれた安全分類器も、この系譜の上にある。「数千時間のレッドチーム」「これまでで最も効果的なセーフガード」というAnthropicの声明の自信は、こうした実証の積み重ねを背景にしている。

ここが今回の反論の技術的な土台になる。「狭い抜け道は残りうる」ことと「誰でも何でも引き出せる汎用的な抜け道は防げている」ことは、まったく別の話だ。Anthropicは前者の存在は認めつつ、後者は防げていると主張している。

つまり——ジェイルブレイクはAIに構造的につきまとう現象で、完璧な防御は誰にもできない。Anthropicは”狭く・コスト高に・監視で補う”多層防御でリスクを下げている、というのが防御側の現状認識だ。

Claude Fable 5停止の開発者・Claude Codeユーザーへの実務的な影響

実務でやるべきことはシンプルだ。Fable 5を前提に組んでいた場合の対応を整理する。

本番でclaude-fable-5を使っている場合:稼働中のモデルへ切り替える。Fable 5はOpus 4.8(claude-opus-4-8)からほぼそのまま移行できる設計なので、逆にモデルIDをclaude-opus-4-8へ戻すだけで多くは動く。ただし価格や一部の挙動(適応的思考の常時オンなど)は変わるので、評価(eval)で確認する
Mythos 5を使っていた限定事業者:対象は少ないが、同じく稼働中モデルへ暫定切り替えし、Anthropic窓口からの復旧通知を待つ
Claude.aiの有料プランでFable 5を選んでいた利用者:他モデルは無事なので、Opus等に切り替えれば通常利用は続けられる
復旧前提で止めない:復旧は「できるだけ早く」とされるだけで期日は未定。CIやバッチに組み込んでいるなら、モデルIDを環境変数などで外出しし、すぐ切り替えられる構成にしておく

教訓——特定モデルへの”一本足打法”はリスクだ。今回は技術障害でも値上げでもなく、安全保障政策という外部要因でモデルが消えた。フォールバック先の用意とモデルの抽象化は、もはや標準的な備えになりつつある。

モデル選択の考え方そのものは Claude Code|2026年版・インストールからCLAUDE.md・Hooks・本番運用までの実装手引きClaudeのケイパビリティカーブ——SWE-bench 87.6%・Opus 4.7が変えた開発者体験の全容 も参考になる。

業界の反応と今後の見通し

反応は大きく2つに割れている。ひとつは手続きの透明性への懸念だ。Anthropicは声明で、政府の手続きが「透明・公正・明確で、技術的事実に基づく」ものであるよう求めた。裏を返せば、現状の指令プロセスがその基準を満たしていないという主張でもある。「狭い潜在的な抜け道ひとつで何億人向けの商用モデルが止められるなら、フロンティアモデルの新規展開は事実上止まる」という論点は、Anthropicに限らず他社にも直接効いてくるため、業界横断の関心事になっている。

もうひとつは、公開直後の混乱だ。Fable 5は公開からの数日で、外部からの安全性の検証圧力にさらされていた。さらにこれとは別に、Anthropicが一時、Fable 5の一部能力(大規模モデルの学習基盤づくりのような”フロンティアAI研究”用途)を、ユーザーに通知しないまま内部的に弱めていたことが批判を呼んだ。

同社はこれを「規約に最も違反しやすい相手を加速させないため」と説明し、影響は全トラフィックの0.03%と見積もっていたが、「見えない制限」である点に研究者から強い反発が出た。

この件では、オープンモデル研究者のNathan Lambert氏が「ひどい(appalling)」「Anthropicを明確に反科学的に見せる」と評し、Dean Ball氏は「AIセーフティが独占的な振る舞いを正当化する誇大宣伝だったのでは」という懸念を招くと指摘。Jeremy Howard氏も「トップのラボである自分たちだけが最高モデルを研究に使い、他者は妨害すると言っているに等しい」と批判した。

Anthropicは数時間で撤回し、「トレードオフを誤った。バランスを正しく取れなかったことを謝罪する」として、今後は安全策をユーザーから見える形にすると表明した。これは政府指令とは別の出来事だが、ローンチ直後から注目が集まっていた空気を物語る。なお本記事の方針として、外部で主張されたジェイルブレイクの具体的な手口・該当する出力の種類は一切扱わない

時系列で全体像を俯瞰すると、今回の停止が単発の事故ではなく、安全研究の積み重ねと輸出規制の地ならしが交差した地点で起きたことがわかる。

flowchart LR A["2022〜
Constitutional AI"] --> B["2025-02
Constitutional Classifiers
(汎用ジェイルブレイク防御の実証)"] B --> C["2025〜
フロンティアAIの輸出規制が整備"] C --> D["2026-06-09
Fable 5 / Mythos 5 公開"] D --> E["2026-06-12
米政府の指令で全停止"] E --> F["復旧協議/基準の明確化へ"]

見通しとして言えることは3つ。第一に、Anthropicが「誤解だ」と踏み込んでいる以上、技術的事実に基づく再評価を通じた早期復旧の可能性は十分にある——ただし期日は未確定だ。第二に、たとえFable 5が戻っても、「政府が個別指令でフロンティアモデルを止められる」という前例は残り、発動基準と手続きの整備が次の論点になる。第三に、利用者にとっての教訓は普遍的で、特定モデルへの依存を避けて切り替え可能にしておくことが、こうした突発停止への最良の保険になる。

まとめ

最後に要点を整理する。

この記事のまとめ

止めたのはAnthropicではなく米政府。2026年6月12日の指令で、Fable 5とMythos 5が全ユーザー停止になった(他のモデルは影響なし)
Fable 5とMythos 5は双子。中身は同じで違いは”安全装置の強さ”だけ。Fable 5=一般公開版、Mythos 5=限定の最大性能版
強力なAIは段階的に渡すのが基本。運転免許のように、安全な使い方が確認できた相手へ。その自社ルールがResponsible Scaling Policyで、段階の物差しがASL。ただし今回の停止理由はこれらではなく政府指令
Anthropicは不同意のまま遵守。「狭い抜け道を理由に何億人向けの商用モデルを回収すべきでない」と反論し、早期復旧へ協議中
開発者の備えはフォールバック設計。claude-fable-5はOpus 4.8へほぼそのまま戻せる。モデルIDを外出しして、外部要因の突発停止に強い構成にする

本記事はAnthropicと政府の判断の背景理解、そしてジェイルブレイクをめぐる現状認識を目的としたもので、いかなる回避策の紹介でもない。Anthropicの公式声明が求めたとおり、この種の問題は「透明・公正・明確で、技術的事実に基づく」議論で扱われるべきだ。各モデルの仕様・価格・ベンチマークは Claude Fable 5とMythos 5入門|公式ベンチマーク・価格・使い分けを解説 にまとめている(本記事=「違い・使えない理由」編、あちら=「性能・価格」編という役割分担)。AIエージェント全体像は AIエージェントとは?仕組み・種類・代表的OSSフレームワークを初心者向けに解説 も参照してほしい。

参照ソース

Statement on the US government directive to suspend access to Fable 5 and Mythos 5|Anthropic 公式声明(一次ソース)
Claude Fable 5 and Claude Mythos 5|Anthropic 公式モデル告知(一次ソース)
Constitutional Classifiers: Defending against universal jailbreaks|Anthropic 公式研究(一次ソース)
Responsible Scaling Policy|Anthropic 公式(一次ソース)
Anthropic disables access to Fable 5 and Mythos 5 to comply with government directive|CNBC
Scoop: Trump admin blocks foreign access to Anthropic’s most powerful AI|Axios